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家賃が滞納

その対応と対策の基本

廣江茜廣江茜

2019/05/18

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不動産投資目的でマンションの1室を購入し、家賃収入にてローンを返済している方も多いでしょう。ただ、その貸している部屋の家賃が滞納されてしまった場合のことまで想定されているでしょうか。多数の建物明渡訴訟を受任してきた経験から、家賃が滞納されてしまった場合の法的対処方法について解説します。

家賃保証会社によって保証される賃料は滞納賃料全額ではない?

家賃滞納に備えて、家賃保証会社を利用しているケースも多いでしょう。しかし、家賃の滞納があった場合に、保証会社が立て替えて支払ってくれる家賃は、滞納家賃の全額とは限りません。保証会社や契約内容によって異なりますが、保証の限度額は家賃6ヶ月分~24ヶ月分とする保証会社が大半のようです。そのため、それ以上の期間、家賃滞納が続いた場合は、そのリスクはオーナー自身が負うことになります。

賃料滞納――対応の第一ステップ

このようなオーナーのリスクを回避するためには、家賃の滞納が3ヶ月以上続いた場合、借主に対し、賃貸借契約を解除し、部屋の明け渡しを求める旨の内容証明郵便を送ることをお勧めします。賃貸借契約を解除するにあたっては、あらかじめ借主に対して「催告」をすることが必要とされているところ、この内容証明郵便を送ることが、「催告」にあたるのです。「催告」をしないで、いきなり賃貸借契約を解除してしまうと、後から裁判でこの賃貸借契約の解除は無効だと判断されてしまう可能性がありますので、注意が必要です。

また、賃貸借契約書において、「家賃を1ヶ月分でも滞納すれば契約を解除できる」といった条項が定められていることがあります。もっとも、このような条項が定められている場合であっても、裁判上は1ヶ月分の家賃を滞納しただけですと、賃貸借契約の解除は認められず、少なくとも3ヶ月分以上の家賃の滞納が必要と考えられています。これは、法的には、賃貸借契約を解除するには、「貸主と借主との間の信頼関係が破壊されたこと」が必要と考えられているところ、1ヶ月分の家賃滞納だけだと、いまだ「信頼関係が破壊された」とまでは判断されないからなのです。

一方で、新たな入居者がすぐに見つかるかが心配なので、すぐには賃貸借契約の解除をせずにもう数ヶ月は様子を見た方が良いのでは、と考える方もいらっしゃいます。しかし、3ヶ月以上家賃を滞納するような借主であれば、今後もきちんと家賃を支払ってくれるとは思えませんし、前述のとおり、保証会社による保証限度額を超えてしまった場合にはオーナーがその分を負担することになりますので、早期に賃貸借契約を解除したほうが、結果的には得策といえます。

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部屋の明け渡しがなされない場合はどうする?

賃貸借契約を解除し、部屋をオーナーに明け渡すよう求めても、借主が明け渡そうとしない場合はどうしたら良いのでしょうか。

合鍵を使って無断で部屋を開け、中の荷物を勝手に運び出してしまうということはできません。そのような自力救済手段を取ってしまうと、逆にオーナーが借主から損害賠償請求をされてしまうリスクがあります。そこで、裁判所に、建物明渡訴訟を提起して、「建物を明け渡せ。未払賃料○○円を支払え。」といった内容の判決をもらう必要があります。

このような訴訟提起までされれば、通常の借主であれば明渡しに応じるものですが、それでもなお、借主と全く連絡がつかない場合や借主が強硬に居座ろうとする場合もあります。このような場合は、次のステップとして、上記判決を元にした強制執行手続を裁判所に申し立てる必要があります。

強制執行手続では、執行官が部屋まで赴き、借主が不在の場合でも鍵を開けて、室内に入ることが認められています。そして、執行官が借主に一定期間内に明け渡すよう促してもなお、約束の期日までに部屋の明け渡しがされなかった場合には、強制的に室内の荷物を運び出すことができます。

このような強制執行手続を行うには、裁判所申立費用(執行官の日当)、同行する鍵屋の費用、荷物を運び出して一定期間倉庫で保管しておく専門業者(執行業者)の費用、とさまざまな費用がかかります。室内にかなりの量の荷物が放置されたままになってしまった場合には、トータル100万円を超えてしまうこともあります。この強制執行手続にかかった費用は、理論上は借主に請求できますが、現実的には、全く連絡がつかないような借主から支払われる可能性は極めて低いのです。

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結局は人を見る目がやっぱり重要

以上のとおり、家賃が滞納されてしまった場合には、オーナーにはさまざまな負担が生じることになります。部屋を貸す際には、資力があってきちんと家賃を支払ってくれる人かどうかという視点を持ち、借りたいという要望があっても、場合によっては断る決断も必要です。

なお、保証会社の中には、上記内容証明郵便の発送や建物明渡訴訟、強制執行手続を代行して弁護士に依頼し、その費用も負担してくれるところがありますので、家賃保証会社を利用する場合には、こうした保証内容を比較検討することも大切です。

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この記事を書いた人

弁護士、ファイナンシャルプランナー

2005年司法試験合格、2006年大阪大学法学部卒業、2008年東京弁護士会所属、保有資格は弁護士、ファイナンシャルプランナー。 身近な法律問題についてわかりやすく、丁寧に説明することで定評がある。また、ファイナンシャルプランナーの資格を活かし、税金が絡む家庭問題(相続・離婚)を中心に一般民事事件業務を行っている。

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